分娩後脱毛症とは|産後2〜3カ月で始まる女性の抜け毛について

分娩後脱毛症とは|産後2〜3カ月で始まる女性の抜け毛について

出産後に髪が抜けてしまう症状を分娩後脱毛症といいます。
髪の健康に欠かせない女性ホルモンが産後に減少することで生じる、一時的な脱毛症です。
産後の体の変化は誰にでも起こることなので避けて通るのは難しいですが、事前に予防すれば症状を比較的穏やかにできます。
育児で忙しい産後も美しい髪を維持できるように、分娩後脱毛症の原因やメカニズム、予防・改善方法などを一緒に確認していきましょう。

分娩後脱毛症とは|症状の特徴について

分娩後脱毛症とは、産後に半数以上の女性が経験する一時的な脱毛症です。
産後2〜3カ月で髪が抜け始め、生え変わりとともに自然に治ります。
細くて短い毛が抜けるFAGA(女性男性型脱毛症)に対して、分娩後脱毛症は硬くて太い硬毛が抜けるのが特徴です。
アトピー性疾患を起こしやすい体質の方は、産後に円形脱毛症になる場合もあります。

分娩後脱毛症の症状

  • 硬く太い抜け毛が増える
  • 髪全体のボリューム感がなくなる
  • 地肌が透けて見える
  • 生え際が後退する

女性ホルモンの急減が原因

出産前後の女性ホルモンの量の変化

分娩後脱毛症の原因は、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンの急減です。
妊娠により一時的に活発化していた女性ホルモンが、出産後元の量に戻ることで髪が抜けてしまいます。
特にエストロゲンは、ケラチンという髪の主成分の生成をサポートする働きがあるので、髪の健康には欠かせません。
産後にホルモンバランスが崩れることで、髪だけでなくお肌やメンタルまで不調になる場合もあります。

分娩後脱毛症のメカニズム

分娩後脱毛症のメカニズム
毛髪は、毛周期(髪が伸びる「成長期」→髪の組織が退化する「退行期」→髪が抜けて新しい毛の準備をする「休止期」)を繰り返しています。
産後に女性ホルモンの分泌量が減少すると、この毛周期が乱れて髪が抜けます。

分娩後脱毛症のメカニズム

  1. 女性ホルモンの分泌量が増えて髪が抜けにくくなる
    出産が近づくと、髪の成長をサポートするエストロゲンという女性ホルモンの分泌量が増えます。これにより髪の成長期が引き伸ばされて髪が抜けにくくなります。
  2. 産後2~4日で本来のホルモンバランスに戻る
    赤ちゃんが生まれると、出産のために一時的に増えていた女性ホルモンの分泌量が減って、元の量に戻ります。ホルモンバランスが整うと、毛周期も本来のサイクルに戻り始めます。
  3. 成長期で抜けにくくなっていた髪が抜け落ちる
    妊娠中に抜けにくくなっていた髪が退行期・休止期に入り、まとまって抜け落ちます。

分娩後脱毛症はいつからいつまで?

分娩後脱毛症は産後2〜3カ月から始まり、4〜6カ月でピークを迎えます。
発症から1年くらいたつとある程度髪が伸びて、元の状態に戻ることが多いです。
髪が抜け落ちた後の毛穴は毛周期のもと、新しい毛を生やす準備をしています。
個人差はありますが、1カ月で約1cm、1年で12〜15cmくらい伸びるイメージです。

分娩後脱毛症と似ている症状

出産後と同じように、ピルの服用をやめた後も抜け毛が増加する場合があります。
ピルは女性ホルモンを補給するための薬なので、使用をやめることで体内の女性ホルモンの量が減ってしまうからです。
髪が抜けることでショックを受ける方も多いですが、一時的な症状なので自然に治るのを待ちましょう。

産後に髪が抜けやすい理由

産後は家事と育児で忙しい日々が続くので、女性ホルモンの減少以外にも、さまざまな要因で髪が抜けやすくなっています。

産後に髪が抜けやすい理由

  • 出産のダメージや授乳
  • 夜泣きや産後ハイによる睡眠不足
  • 産後ダイエット
  • 育児に対するストレス

それでは1つずつ確認していきましょう。

出産のダメージや授乳

授乳している母親

出産後は体が非常に大きなダメージを負っている状態で、回復には多くの栄養が必要です。
髪は生命に直接関わる器官ではないので栄養の供給が後回しになることが多く、その結果髪が抜けやすくなってしまいます。
また赤ちゃんが生まれると、プロラクチンというホルモンの働きで授乳期が始まります。
授乳期は母乳を通して赤ちゃんに栄養を与える必要があるので、体内の栄養が不足すると髪にも影響が出てしまうのです。

夜泣きや産後ハイによる睡眠不足

育児が始まると夜泣きやその他のお世話で、睡眠時間が変則的になることが多いです。
加えて産後3カ月は「産後ハイ」で体が興奮状態になりやすいので、疲れているのに眠れないという方もいます。
睡眠は体の健康と深く関わり合っていますが、髪も例外ではありません。
十分な睡眠が取れないと、髪の成長をサポートする成長ホルモンを分泌できなくなるので、髪の健康状態が悪化してしまいます。

産後ダイエット

産後ダイエットをすると、回復途中の体が栄養不足に陥ってしまうので、髪やその他の器官が正常に機能しなくなります。
また授乳期に食事制限をすることで、母乳が出なくなったり、母乳の栄養が低下したりする場合もあります。
産後の体重管理は多くのママを悩ませる問題ですが、焦らずに栄養バランスを優先することが大切です。
どうしても体形が気になる方は、体調に合わせてウォーキングなどの軽い運動を取り入れてみましょう。
まずは10分前後から始め、慣れてきたら30分と無理のない範囲で継続することが効果的です。

育児に対するストレス

育児にストレスを抱えている女性

育児に対するストレスは、多くのママが体験する必然的な現象です。
しかし心身への強いストレスが長期間続くと、髪や体調にまで影響が出ることがあります。
産後は赤ちゃんの発育に対する不安や母乳トラブル、自分自身の体の変化など、さまざまな悩みが付きまといます。
「赤ちゃんをしっかり守り育てる」という責任感の強いママほど、ストレスを抱えてしまいがちです。
ストレスが大きい場合は1人で抱え込まず、家族や友人、婦人科や心療内科などに早めに相談するようにしましょう。

分娩後脱毛症の治し方

分娩後脱毛症は一時的な症状なので、薄毛の治療薬は使わずに自然に治るのを待つことが基本です。
特にミノキシジルなどの治療薬は多くの場合、授乳が完了するまで使用できません。
しかし髪に必要な栄養を届けるパントガール(内服薬)や育毛剤、サプリメントなどを使って、髪が生えやすい環境に整えることはできます。
髪が抜けてから回復するまでの速さには個人差があるため、長引く場合は婦人科や薄毛専門クリニックに行って相談してみましょう。

分娩後脱毛症を予防・改善するためにできること

分娩後脱毛症は自然に治ることがほとんどですが、予防や改善のためにできる対策を実践すると、より安心して過ごせます。

分娩後脱毛症を予防・改善するためのポイント

  • バランスのよい食事をとる
  • 睡眠の質を高める
  • シャンプーで頭皮環境を整える

すでに髪が抜けてしまった方も、症状を穏やかにするための改善策として取り入れてみてください。

バランスのよい食事をとる

分娩後脱毛症を予防するには、主食、主菜、副菜からバランスよく栄養を摂取して、体の健康状態を整えることが大切です。
髪や体の成長をサポートするたんぱく質やビタミン、ミネラルに加え、母乳に関わる葉酸や鉄、カルシウムなども積極的に摂取するようにしましょう。

産後のダメージ回復によい栄養とその食材

たんぱく質:牛肉、豚肉、牛乳、豆製品、カツオ、刺身など
葉酸:ほうれん草、アスパラガス、春菊、納豆、枝豆、レバーなど
鉄:レバー、卵黄、ココア、焼きのり、カツオなど
カルシウム:牛乳、チーズ、小魚、小エビ、木綿豆腐など

特に産後6〜8週間の産褥期(さんじょくき)は、体が妊娠する前の状態に戻る期間なので十分なエネルギーが必要です。
食事だけで栄養を摂取するのが難しい場合は、必要に応じて薄毛に効くサプリメントなども活用してみましょう。

睡眠の質を高める

赤ちゃんと寝ている女性

質の高い睡眠はホルモンバランスを整え、自律神経を安定させるため、分娩後脱毛症の予防に大きく寄与します。
赤ちゃんのお世話で睡眠が中断されやすい産後だからこそ、できる範囲で睡眠の質を高める工夫が必要です。

育児中の睡眠のポイント

  • 快適な寝具をそろえる
  • 夜は暖色系の間接照明で部屋をやや暗くする
  • 寝る前は温かい飲み物を飲んでリラックスする
  • 子供と一緒に昼寝してリフレッシュする
  • 育児の役割分担について話し合う

特に生後1カ月の赤ちゃんは眠りが浅いので、昼夜問わず授乳が必要です。
家族と協力して短時間でも休めるようにしましょう。

シャンプーで頭皮環境を整える

分娩後脱毛症を予防するには、シャンプーで髪の土台となる頭皮環境を整えることが大切です。
ここでは頭皮に優しいシャンプーのやり方をご紹介します。

シャンプーのやり方

  1. ブラッシング
    シャンプー前にブラッシングをして、髪についたごみや皮脂を浮かび上がらせます。ブラシはコームよりも、頭皮に優しいクッションタイプがおすすめです。
  2. 予洗い
    ブラッシングが終わったら、2分程度お湯で髪を洗います。この段階で多くの汚れが落ちるので、シャンプーでゴシゴシ洗う必要がなくなります。
  3. シャンプー
    シャンプーを手に取り十分に泡立てたら、指の腹を使って、頭皮をマッサージするようになじませます。汚れを落とすために爪をたてて洗うのはNGです。
  4. 洗い流す
    シャンプーが残らないように丁寧にすすぎます。後頭部や生え際に洗い残しがないように注意しましょう。お風呂から上がったら、なるべく早く髪を乾かすことも大切です。

出産後はちょっとした刺激にも敏感になるので、今まで使っていたシャンプーが合わなくなることもあります。
このような場合は、お肌に優しく低刺激なアミノ酸系シャンプーなどに変えてみましょう。

分娩後脱毛症の注意点

分娩後脱毛症がなかなか治らない場合には、他の病気を併発している可能性も考えられます。

併発している可能性がある病気

  • FAGA
  • 産後うつ
  • 甲状腺機能低下症

薄毛を放置していると、症状が悪化することもあるので注意しましょう。

FAGA

分娩後脱毛症が1年以上治らない場合は、FAGAを発症している可能性があります。
FAGAは加齢や遺伝による女性の代表的な脱毛症です。
頭部全体の髪がまばらに抜けるびまん性脱毛症の症状がみられます。
放置していると進行してしまうので、早期の治療が必要です。

そのほか、女性が発症する薄毛の症状については、女性の薄毛について|原因や改善策をご紹介をご確認ください。

産後うつ

産後うつの女性

産後2週間以降も極端に悲しくなったり、イライラしたりする場合は産後うつの可能性があります。
髪の健康はストレスと深く関わっているため、産後うつの状態が続くと分娩後脱毛症の回復も長引きます。
精神的な負荷が積み重なると、部分的に髪が抜ける円形脱毛症や自分で髪を抜いてしまう抜毛症を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。
悲しみの感情が続く場合は、早めに心療内科や婦人科を受診するようにしましょう。

甲状腺機能低下症

出産後に髪が抜ける原因の1つとして、甲状腺機能低下症が考えられます。
甲状腺機能低下症は、むくみや倦怠感、声がれ、脱毛などが引き起こされる自己免疫疾患の1つで、出産後のママの1割程度が経験しています。
これまで甲状腺疾患になったことがない方でも、発症する可能性があるので注意が必要です。
体に不調を感じたら、その他の病気も疑ってみましょう。

まとめ

分娩後脱毛症についてここまでの内容を振り返ると、次のポイントが大切です。

  • 分娩後脱毛症とは出産後、一時的に髪が抜ける症状のこと
  • 女性ホルモンの分泌量の急減が原因
  • 産後2〜3カ月で髪が抜け始め1年前後で治る
  • 育児へのストレスや産後ダイエットも髪に悪影響を与える
  • たんぱく質や葉酸、鉄、カルシウムの摂取で予防できる
  • なかなか治らない場合はFAGAやそのほかの病気の可能性も

分娩後脱毛症は、出産後に多くの女性が経験する自然な症状です。
あまり心配しすぎずに、バランスのよい食事などを意識しながら、新しく髪が生えてくるのを待ちましょう。
また美しい髪を維持するには、自分自身をいたわることも大切です。
24時間気の抜けない育児ですが、少しでもリラックスする時間を確保して、体を休ませてあげてください。

よくある質問

分娩後脱毛症を発症しない人はいますか?

産後のホルモンバランスの乱れは誰にもでも引き起こりますが、体質や生活習慣によっては分娩後脱毛症を発症しない方もいます
髪が長いと抜け毛が目立ちやすいので、気になる方はあらかじめ短くカットしておくとよいでしょう。

産後2〜3カ月たってから発症するのはなぜですか?

毛髪は毛周期(成長期→退行期→休止期)を繰り返しています。
出産前は、この中の成長期が長引いている状態です。
髪が抜けるには、退行期・休止期を経る必要があり、これに2〜3カ月程度かかるので出産後すぐに抜けることはありません。

授乳中は頭皮・ヘアアートメイクを受けられますか?

頭皮アートメイクとヘアアートメイクは、頭皮に小さなドットや線を描いて脱毛部分を目立たなくする施術です。
パウダー感のある自然な仕上がりのスカルプエアーメディカルや生え際に毛並み感を出せるヘアラインアートメイクなどのメニューがあります。
授乳中も施術を受けることはできますが、ホルモンバランスの変動が激しい期間なので肌トラブルなどのリスクも高まります。
施術を受ける際は、事前に授乳している旨をクリニックに伝えるようにしましょう。

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